『ニュータウンは黄昏れて』

9月10日
不動産クラスタでは「狭小邸宅」の評価が高いが、自分はむしろ「ニュータウンは黄昏れて」の方を、「不動産小説」としては強く推したい。タイトルの通り、郊外老朽団地の自主管理組合の人間関係、建替問題が紛糾する様子が描写され、さらには「こんなニュータウンは嫌だ」と脱出を試みる子供世代の話も

だれか、タワーマンション理事会の人間模様を小説にしてくれ、、

垣谷美雨は、ニュータウンの子供世代(娘3人)を小説に描いた/原武史は、ニュータウンの子供世界のリアルを「滝山コミューン1974」でノンフィクションで描いた

9月11日
ニュータウンは黄昏れて」、マジ面白い。「狭小邸宅」読んだ際には殆どメモる必要なかったネタ帳が、どんどん埋まっていく

ニュータウンは黄昏れて」が提示した暗い未来を、三浦展がどこまで明るく出来るのか?

9月12日
ニュータウンは黄昏れて』読了。例によって、ネタバレ的ツッコミを多数していきたい/再三言うが、『狭小邸宅』と比べて、垣谷美雨の文章力・表現力がスマート。素人とプロの差、と言うべき/もっとも、真保裕一ほどの表現力はないが。

『住宅営業の苦労話』でしかない狭小邸宅に対し、『ニュータウン』の方は、バブルと、バブル崩壊と、街の老化で翻弄される家族そのものの物語になっている。これにニュータウン育ちの3女性の恋愛物語が重層的に重なっている

『上手い!』と感心したのは、主人公を『ニュータウン第一世代』じゃなく、『ニュータウン第1.5世代』に設定していること/ニュータウン第一世代は、昭和50年頃に新築でやってきた世代で、今なら後期高齢者の仲間入り/そうじゃなく、主人公は『バブル期に、築15年のニュータウンを中古購入』

つまり、主人公は『新築時からニュータウンに住んでいる世代より、15〜20歳ほど若い』という設定になっている。なので、この微妙な世代差が、様々なズレを引き起こしている、という設定の妙/主人公はまだ50代で、主人は都心へ長距離通勤、奥さんはパート。一方で団地の主力は隠居生活。このズレ

隠居生活な『団地第一世代』は、ヒマはあるが体力はない。だから草むしりとかたりたくない/主人公などの数少ない『団地第1.5世代』は、多少の体力はあるが、現役だからヒマがない。草むしりに協力する時間がない/但し、両方とも『カネがない』点が共通

団地第一世代が、バブル期より前に団地購入しているのに対し、主人公は『バブル期に、マイホームを持てない、という強迫観念に駆られ、割高で団地を中古購入』。なので、経済的には、第一世代よりもさらに悲惨

主人公の購入団地の設定が、妙にリアルで笑った。垣谷美雨の実体験に基づいているらしいが/『駅からバス5分、95?4LDK、購入時築15年、5,200万円、住宅ローン6.9%』/当時は『新築より中古の方が高いという逆転現象だった』とある。言われてみれば、そうだったかも

確か、当時は『新築は抽選で何十倍の倍率』だったり、国土法の関係で新築マンションは価格を抑えられていたんじゃなかったかと記憶している。その辺の事情を知らない若い人が読むと、『???』だろうな

都心から多少遠いが『始発駅でラクラク座って通勤』の筈だったのが、その後始発駅じゃなくなり、痛勤ラッシュに巻き込まれる、というエピソードがなんとも。この時点で、モデルとなってるのが京王多摩センター、もしくは南大沢なのがモロバレじゃん

老朽団地のトラブルの、ほぼ全てが網羅されている。小学校の廃校、商店の閉鎖、バス廃止、孤独死、駐車場空き問題、近隣にメーワク掛ける問題入居者・・・

面白い視点もある。『団地というと、2DKの狭い団地を思い浮かべる人が多い』が、主人公は95?という『恵まれた広さ』に住んでいる/が、世間の人は『団地は狭い筈、カワイソウ』という偏見を持っているので、自分達の団地は正当に評価されていない、という視点

確かに、昭和30年代なひばりが丘団地とかと、昭和50年代60年代の『住宅都市整備公団のカタカナ団地』とじゃ、住面積に格段の差があるよね。面積差、スペック差を表現したくて、住宅都市整備公団はカタカナネーミングした筈/が、結果としては、世間はカナカナ団地をブランド評価しなかった

マスコミ報道の自己実現バイアスについても言及していたな。『ニュータウンは年寄りばかり、お先真っ暗です』とマスコミが負の側面ばかり面白がって報道し、正の側面(日商通風が良好など)を取り上げないから、世間のニュータウンへの評価がますます下がってしまい、価格が下がってしまう、と。

『これが一戸建てだったなら、土地を自治体に寄付できて、負債から逃れられるのに』と主人公が言ってるが。現実は甘くないよ。自治体は、集合住宅も、土地も、不動産物納は一切引き取らない

Amazonなどの感想文には、『暗い物語で、救いがなかった』とネガティブコメントが多いが、これが空き家が急増するニッポンの未来図だよ。現実を直視せざるを得ない。/それでも、賃貸団地で有機野菜商売を始めた主人公の娘には、『ほのかな将来』があると思うが。

『ドラマ化したら?』との声もあるが、基本的に日本のドラマは、なんらかの形でハッピーエンドを求められるからなあ。このような『不都合な真実』を描く小説は、ドラマに出来ない

団地第一世代、プライドだけはやけに高い。『俺たちは都心に通ってたれっきとしたホワイトカラーだったが、最近この団地に入ってくる(数少ない)若い奴らは、地元のブルーカラーばっかりじゃないか。なんか人種が違うんだよなあ』。/つまり、マイルドヤンキーとは付き合いたくないということか?

建替え反対派の指摘が重要。『5階建てを14階建てにして、容積を捻出して建替費用を捻出。今回はそれで乗り切っても、じゃあ次は?14階建てを20階建てにするのか?』/これ、今の『成功している団地建て替え』が完全にスルーしている問題点だよね。余剰容積率を使うマジックは、2回目は使えない

美味しい建替え話が主人公の元にやってくるのと同時に、主人公の娘に『白馬の王子様』がやってくる/が、しばらくすると、建替え話も、白馬の王子様も『毒まんじゅう』だとわかる/こういう重層ストーリーが『ニュータウンは黄昏れて』の醍醐味。『狭小邸宅』だとそんな工夫はない。

ニュータウンって、その第二世代にも苦労を掛けちゃう。主人公の娘はフリーターだが、都心の時給の高いバイトに行くには『通勤時間も、交通費も、ソン』。だから、『地元の安いバイトに、通勤時間の分、余分に働く』方が、トータルではトクなんだよね/つまり、ニュータウン居住は第二世代にも悪影響

この指摘も重要。『今は、まだ第一世代の主人が存命だから、曲がりなりにも団地の組合は機能している』が、『第一世代の奥さんは、割と専業主婦比率が高い世代』で、経理とか事務とかが出来ない女性が多い/男女の寿命的に、そろそろ団地第一世代の男性は鬼籍に入る。奥さん連中に組合運営能力あるか?

これが団地第二世代だと、女性もかなり共働きしていて事務経理能力に長けていたりするのだが。専業主婦神話が強かった世代の女性の悲劇。

理事長を巡る人間模様も。前理事長と新理事長の仲が微妙だったり、新理事長に認知症の兆候が出ていたり/実際、認知症な理事長って、結構実在していると思うのだが、どう運営しているのやら

勿論、お約束の『理事・役員押し付け合い合戦』もリアル描写されております。

ニュータウン第二世代、3人の女性のうち、1人はニュータウンに留まるが、2人は都心寄りの戸建てに家族ごと転居。うち1人は『板橋の狭小邸宅』、じゃなかった狭小住宅に引っ越し。オープンハウスかな?/そっちの狭小住宅も、台風で雨漏りし、業者は倒産してたり、と悲惨な運命

建替えを巡って、最後は修羅場の泥仕合に。一方が(認知症気味の)理事に対して「このボケ老人が!」と暴言を吐いたり/これはリアルでもこうなんだろうなあ。

分譲の団地の建替えリニューアルが難航(というか、全く停止)しているのに対し、賃貸の団地の方が着々とリニューアルしていくパラドックス

@morimori_naha 基本的に、少しでも金融資産があれば、そこから相続税を支払え、というのが国や自治体の考え方です。以前は物納はそれなりに認められていましたが、いまでは殆ど認められていない

階数対立も。1階住民は『自分にメリット無く費用負担だけあるエレベーター後付工事に反対』するし『防犯灯の設置にも、明るすぎて眠れないと反対』/遮光カーテン付ければいいじゃないですか?と指摘したら『シャコウって、何ですか?』なリアクション。後期高齢者の住まいリテラシーって、こんなもの

『理事長がボケた』という事態に対して『理事の定年制』という冗談のような案が提案される。でも、実際問題、80歳とか90歳で理事とか理事長をやらしていて、万一の際にどうなるのか?という問題は、避けては通れないよなあ。

ただ、主人公の娘の前に現れる『白馬の王子様』は、さすがに『そんな奴おらんやろう』な感じ。『あなたの教育ローンも、あなたの親御さんの住宅ローンも、僕が全て建替えます』と結婚前に言ってのける

これほどの『白馬の王子様』(代々の大地主の息子)なら、その保守的人脈から、さまざまな見合い話が来て、そっちで身を固めるのがリアル世界の話なんだろうが、まあここは小説だからね。

さりげなくドイツやイギリスの住宅事情・団地事情が描かれている。ドイツでは『一代目が家を建て、二代目が家具を整え、三代目が食器を整える』/『そもそも、集合住宅を分譲しているのは日本だけ。ヨーロッパでは集合住宅は皆賃貸』とも。

@haruboo0 キムチパワーで、韓国人は認知症にならない?まさかね。

毒まんじゅうな大地主の息子と『割り切って』結婚する娘の女友達と、結局毒まんじゅうを食べなかった主人公の娘。どっちが幸せなのか?も最後に問いかけている。

主人公は結局、ニュータウン問題『解決』のため、市議選に立候補するんだよな。実は『市議の年収900万円』目的の立候補でもあるのだが/多摩市辺りだと、市議の報酬は900万円程度なのかな?/一昔前だと、団地出身の議員といえば『三色旗な議員さんか、アカハタな議員さん』だったんだが、今は?

これは原武史が言ってるが、『賃貸系団地の入居者の中から市議はそれなりに出る(但し、政党色が強い)』のに対し、分譲系の団地だと『市議が現れない』な話だよね?/ますます、『タワーマンション出身の区議、ローカル政党を作りましょう』ですよ。江東区だと会派作れるのでは?

サイドな小ネタ話も。『美大生自身、絵を買わないから、日本の絵画市場はダメだ』とか『聴講生制度を使った学歴ロンダリング』とか『昭和なコンピューター言語を操れるシニア技術者が、現代ではむしろ希少でひっぱりだこ』とか

@lacucaracha 『市議や区議を送り込むことが、いかに利益誘導で利得があるか?』ということを、タワマン住民は肌感覚で理解できていないですから。『そんなのに頼る必要はないし、頼ってるようだと恥だ』と思っているのかも。

成程、と思ったのは、『自転車の利用率が、世代高齢化のメルクマール』になる、というくだり。オールドタウンだと、高齢者は自家用車より先に自転車利用を取りやめる。

建替えに賛成する人は、『建替えて、新しい住まいを手に入れたい』という人よりも、『建替えて新築にした方が、売り抜け出来る』という経済計算で賛成してる人の方が多いような記述。実際のところはどうなのか?

結局『ニュータウンに住み続けた人が負け組で、ニュータウンから都心寄りに引っ越した人が勝ち組』だったのか、『バブル期に高値掴みした人が負け組で、崩壊後に底値拾いした人が勝ち組』だったのか、『昔からの大地主だけが勝ち組で、首都圏に先祖からの資産を持たない人の殆どは全て負け組』なのか?

ということで、『ニュータウンは黄昏れて』の紹介ネタバレツイートを終わらせますが、マンションクラスタな方々、読んでみたいと思われましたか?

ニュータウンは黄昏れて」が、今ツイート検索したら、Kindleでベストテン入りしてる。まさか、自分の紹介ツイートがキッカケか?

9月13日
ご免、この小説読んだが、何故受けてるのかが判らない。「こんな業界とは知らなかった」から外野から受けてるんだろうが、内部を知ってる自分からしたら「何を今更感」/というか、昔の大京の方がはるかに酷かった / “最高に荒んだ気持ちになり…” http://htn.to/623HT3wc6

大京の都市伝説。押し売り営業してたら不審者通報され、警察に営業マンが捕まった。営業マンが上司に対して「大京社員であることを、電話で警察に説明して下さい」➡「お前、警察官にマンション売れ。そうしなきゃ説明してやらない」

「狭小邸宅」にさほど関心沸かないのは、「小説より奇なる事実」を多数知っちゃっているからなんだろうなあ

ニュータウンは黄昏れて」と「狭小邸宅」かブームになるのは、やはり「読書の秋到来」なんだろうな

9月14日
@Tokyo_of_Tokyo @kazuo57 つまり「湾岸戦争」ですね、わかります/サダムフセイン役とブッシュ役を決めなければ。オッキーとさかーきー?

9月17日
ニュータウンは黄昏れて」、まだアマゾンの売れ筋ランキングをキープしているが、これって、もう「自分の啓蒙ツイートの影響で」という範囲を超えているよね。恐らく「ベスト10入りしているから、ポチッと購入する」という不動産クラスタ以外からの流入があるのでは?

@Tokyo_of_Tokyo @t_taniyan アマゾンだと「この本を買ってる人は、他にもこんな本を・・」とレコメンドされるから、余計に3点セットで買われるよね

ニュータウンは黄昏れて」で思いついた話だが、今のテレビドラマで、郊外ニュータウンを扱うドラマがないし、それ以上に「空き家問題」「ゴミ屋敷問題」を扱ったドラマって、ないよね?空き家率13%のご時世だから、田舎の「負」動産な空き家を、相続したくないのに相続しちゃったドラマキボンヌ

9月21日

@mikumo_hk 織部家の問題をなんとか救ったのが岡山の祖母な訳で、あの祖母がいなかったら、琴里ちゃんは首吊りか、黛氏に嫁入りしてたんだろうな/売れるうちに、地方の田畑は売却して、首都圏で3世代同居すべき?

「自分のツイート予言が数ヵ月して実現する」メソッドに従えば、「ニュータウンは黄昏れて」が話題になってテレビドラマ化する、はアリかもしれない。

でもよく考えたら、「どこのニュータウンでロケするの?」が最大の問題だなあ。ロケされた団地は、「ウチは黄昏団地です」と内外に宣言してるようなモノだからなあ。物件価格に影響する/となると、アニメ化?

9月22日
をを、ついにニュータウン黄昏がはてなホッテントリ入り! / “郊外の団地を眺めて黄昏れたいあなたへ、不動産を高値掴みした人々が街と一緒に沈んでゆく小説「ニュータウンは黄昏れて」 : 市況かぶ全力2階建” http://htn.to/wNKGKq

ニュータウン黄昏、元々半年前に「団地」というキーワードで図書館蔵書検索したらヒットした本の中の1冊だったんだよな。その後別の本の読書を優先させてたが、読んでよかった/図書館のキーワード検索って、結構使える


ニュータウンは黄昏れて」がはてなホッテントリ入りした、ということは、つまり不動産クラスタ以外からの、ある意味「素人」の、郊外住宅問題の感想が聞ける、ということになります。もはや「不動産業界の教科書」の枠からはみ出すことになる

その「一般人」のニュー黄昏コメントに、「ということは、多摩ニュータウンは、今お買い得じゃん」というコメントがあったのが気になった/つまり、「不動産購入は出口戦略を考えよ」という沖理論はいまだに一般人には浸透してなくて、表面的な金額だけで購入判断する人の方が多数派だと判る

「沖理論が一般人にはまだ浸透していない」というのは、「まだまだ理論浸透の余地があり、沖有人氏もスタイルアクトもまだまだ儲かる」のか、それとも「これ以上沖理論は広まらない、沖理論を理解できる合理的思考な人の存在比率は、相当低い」のか、どちら?