我が意を得たり!

小生がよく巡回する「Tack'ns-痛快エッセイ」より
http://www.kt.rim.or.jp/~sugasawa/news/kokyakumeibo_funshitu.html

伊勢丹の婦人服販売員が100人分の顧客名簿紛失
〜 紙面の無駄。すごい時代になったものだ。 〜 2004.6.21
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伊勢丹の婦人服販売員が100人分の顧客名簿紛失
  伊勢丹は21日、新宿本店(東京都新宿区)の婦人服ブランド「コムサ・デ・モード」の
男性販売員が、顧客約100人分の氏名や住所などの個人情報が記された顧客名簿を紛失した
と発表した。(読売新聞社のサイトより) 
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 10年前には、こんな事件が新聞記事になることはなかったであろう。
 すごい時代になったものである。我が国では、1日に数十人の交通死亡事故があり、1日に
1万件近い窃盗事件がある。にもかかわらず、そんなものはいちいち記事にならない。しかし
名簿の紛失が記事になるのだ。
 ここ数年、「個人情報」というものに世間が敏感になりすぎている。私に言わせれば、
ちょっとヒステリックな状況だ。
 個人情報といっても、確かに通信簿の点数だとか、進学の内申書だとか、健康診断の結果
とか、クレジットカードの番号とか、そういうものは保護されるべきであろう。しかし、住
所と名前と電話番号程度のものは、別に漏洩させたって構わないではないかと思うのである。
実際、それが当たり前の時代も長く続いていた。
 氏名と住所と電話番号、それに性別と生年月日がばれたからといって、一体何が問題なの
だろう。せいぜい、ダイレクトメールや各種勧誘の電話が増える程度ではないのか。その中
には悪徳業者や詐欺もいるかもしれない。だが、取り締まるべきなのはあくまでも「執拗な
勧誘」や「詐欺」そのものであって、住所や電話番号の融通行為ではない。これは、Winny
に代表されるファイル交換ソフトの作者を取り締まるのではなくて、悪用した人を取り締ま
るべきだというのと同じ論理だ。
 かつてと違い、最近は膨大な人数の個人情報がCD-ROM1枚で運べてしまうから、事情が変
わってきたのだと言う向きもあるだろう。インターネットで簡単に情報が送信できてしまう
からなおまずいのだと言うかもしれない。だが、技術の進歩と共に様々なものが変わってい
くのは当然のことだ。
 例えば、300年前の日本人は、殆どの国民が、天皇陛下や将軍の顔を知ることさえできな
かった。庶民が直接見る機会など当然ないし、写真はない時代だ。似顔絵を見ることが出
来れば良い方だ。それが、写真やテレビの登場で、各国の要人の顔は容易に知れる時代に
なった。果たして、要人の顔がばれると暗殺される危険性が高まるから、常に覆面をかぶる
べきなのだろうか? そうではないだろう。
 これは「有名人は特別だ」という問題ではない。知りうる情報、公開可能な情報が、技術
の進歩と共に変わり、それを受け入れている例として挙げたのである。個人情報も安易に
「全て保護せよ」と言ったところで、完全な保護は無理である。例えばクラス名簿や卒業名
簿を、クラスメイトの一人が名簿屋に持ち込むことを阻止することは出来ないのだ。そして、
それを禁止する法律を作るのにも反対だ。自然な情報の流れを無理矢理シャットアウトする
規制は、安易に導入するべきではない。
 とにかくどうしたことか、現状はいちいち騒ぎすぎだ。今は社会全体が不思議にナーバス
になっているので、100人程度の情報流出でマスメディアは取り上げるし、企業もその流れ
を受けて、傷が浅いうちにこの程度のことをいちいちアナウンスしているのだろう。
 こういう企業の対応は、政治家たちが「年金未納」の事実を、まるでひき逃げでも隠して
いたかのように告白するのと似たものを感じるのである。または、魔女狩りのような不気味
さとでも呼ぼうか。