シニアリートはバラ色か?

11月8日
先日、某セミナーで、ヘルスケアリートの話があったが、そもそも「ヘルスケアリートの立ち上げが、サ高住の供給とか、病院の耐震化に寄与する」という絵を全く想像できないのだが

ヘルスケアリートの根っ子の課題を指摘してないから、あまり意味の無かったセミナーだったな。根っ子の課題は「日本の介護施設のオペレーターが、あまりにも零細プレーヤーが多すぎて、リートの対象アセットにしにくい」「介護施設建物所有者が法人でなく個人が多く、しかも先祖代々地主が多い」こと

だから、サ高住そのものは全国に多いのに、「リートの対象になりそうなサ高住」なんてのは、1%あるかないかですよ。運営が学研とかベネッセとかメッセージとかの上場級の大手で、アセットも地主が所有してないのは、滅多にない

テーマが「ヘルスケアリート拡大の課題は?」的な話なんだから、「厚生労働省は、介護事業者の再編、大規模化を誘導する政策を推進すべき」程度の大風呂敷を披露して欲しかった

それとも、ゼロから土地建物を新規取得して、サ高住や老人ホームを開業させる、その開発資金をリートから調達させるのか?/ゼロから法人が土地取得したシニア施設が、土地代タダな「相続地主系のシニア施設」より競争力があるとは、思えない

考えられるのは、「都市の再開発で、シニア施設の分は容積率ボーナスが貰えた」為、「実質的に土地代ゼロ」なシニア施設の開発資金をリートで賄う場合

一方で、そのセミナーの別のコーナーで、こんな話もあった。「日本の年金基金は、GPIFが100兆円という突出した資産額を有してるが、それ以外の年金基金の規模が小さすぎる。アメリカなら10兆円規模の基金が多数あるのに、日本では10兆規模は少なく、1000億、100億な「零細」が多数」

日本の年金基金は、欧米の基金と比べて「小さすぎる」ので、欧米基金よりも運用が積極的ではない。例えば、実物不動産への投資とかも、基金規模が小さすぎて、出来ない/一方、GPIFは、「規模が大きすぎて」、運用が積極的に出来ない

つまり、年金基金の規模にも「最適サイズ」というのがあって、欧米の年金基金は運用に最適になるサイズに収まってるが、日本のそれは「小さすぎるか、大きすぎる」という話/ならば、小さすぎる年金基金の合併を促す一方で、GPIFを分割すべき

あと、こんな話もしてたな。「日本の年金基金は、年度当初に作成された、期間内での資金運用計画マニュアルに従って運用しているので、機動的な運用が出来ない」/例えば、掘り出し物の運用商品が6月に出てきても、基金の予算書で「支出は下期になってから」と書かれてると、上期に買うことが出来ない

その辺、多分欧米の年金基金は、予算計画を弾力的に運用してるとか、担当者の裁量が強いとかで、機動的に「掘り出し物を拾えている」んだろうな。日本のサラリーマン年金運用担当者との違い

自分は資金運用の世界には全然疎くて、ある意味門外漢状態でセミナーを聞きに行ったから、逆に新鮮な目で「今の日本の年金資金の運用者の欠点」が見えてくるんだろうな。関係者の間では、その辺の話は、あまりにも常識になりすぎていて、逆に問題提起すらできなくなってる

こんな話もあった。「年金基金の内規で、株式運用と不動産運用の配分比率を決めている場合がある。担当者が杓子定規に内規を墨守すると、株式が下落した時点で『資産に占める不動産割合が上がっちゃう』ので、『配分比率遵守のため、不動産を売却する』」

つまり、不動産の世界が『何も悪いことをしてない』のに、株式市場側でアクシデントが起こると、不動産側(Jリート等)が『ツレ安』になってしまうのは、ここにメカニズムがある。金融に疎い自分は、なぜ株式市場に引っ張られて不動産も影響するのか今まで理解できなかったが、疑問が氷解

ただ、こういう『年金運用担当者の問題点』とか『ヘルスケアリートのネック』という話題は、一般のツイッター民には、あまり縁のない話。その証拠に、この系のツイートのリツイートやファボが少ない/日本国内にも専門家はいるんだろうが、数は少ない。ツイッター民と比べたら、いないも同然

多分こういう『年金運用者の問題点』とかの話は、日本国内に千人もいない関係者同士で、実名で議論しあってるんだろうな。そこに第三者が立ち入ることは少ない/そういう場で『そもそも、日本の年金の規模が少ないんでしょ?』とか『年度当初のマニュアルを墨守し過ぎ』と本質的問題提起する人は少ない

自分は、金融の世界は全く門外漢だが、それでも『日本国民の平均よりは、その手のリ
テラシーはある方』だとは思ってるから、問題点は問題点として、キチンと指摘していきたいと思ってる

『株式と不動産の投資比率を定めた内規を墨守するせいで、ツレ安が発生する』というのは、インデックスファンドのパラドックスに似てるな。インデックスに採用された銘柄が、その業績自体には関係なく、『インデックスファンドが売り』と指令された日には、業績に関係なく売られていく

まあ、逆もあるんだろうケドね。業績自体は何も変化なくても、インデックスファンドそのものが『日本経済は買いだ』と判断したら、何故かその銘柄も買われてしまう

だから、企業にとっては、日経225に組み入れられるのは、半分名誉でもあるが、半分迷惑なんだろうな。『俺は日本経済全体のトレンドに関係なく、自力でグローバルに成長していけるワイ』という企業にとっては、日経225組み入れは、インデックスファンドの『思考停止売買』に巻き込まれて損

@Sugarless_kid そういえば、先日のヘルスケアリートを含めたセミナー、ヘルスケアリート最大のリスク『政策変更リスク』について、全く言及してなかったな。

@Sugarless_kid というか、ヘルスケアリートの関係者がツイッター界に存在していたとは自分も思わなかった。大変失礼しました。

運用マニュアルにがんじがらめな年金基金運用担当者と比べると、個人投資家というのは、「マニュアルに囚われない」「資金の配分先は自由」「年度の縛りもない、決算期を気にする必要もない」という点では、実は圧倒的に有利なんですよね。資金の絶対量は少ないですが。

サ高住が一気に普及したのは、厚生労働省国土交通省が頑張ったからでもなく、ましてやヘルスケアリートが組成されたからでもなく、普段から地主との間に強力コネクションを有していた積水ハウス大和ハウスが、土地有活と社会貢献ということで地主へ積極プレゼンしていったのが理由の8割だと思う

積水ハウス大和ハウスが、自身もリートを有しているのに、そこにヘルスケア系をそんなに突っ込んでないということは、彼らはヘルスケアとリートは別物と捉えているということですよね。

手元資料を見ると、「シニア住宅業界で、上位20社のシェアは、全部合計しても7%」しかなく、「7,000事業者がひしめき合ってる」らしい。経済産業省石油元売りを再編しようとし、金融庁は地銀を再編しようとしているのに、なぜ厚生労働省はシニア産業の再編に乗り出さない?

石油元売りを再編しても、国民生活にはそんなに影響ない。地銀信金信組を再編しても、まあそんなに影響しない。でも、介護業者を再編し、大手中心の業界へ入れ替えていけば、国民生活に大きな影響が出てくると思う。

多分、シニア産業のプレーヤーが「あまりにも零細が多すぎるため、再編しようにも、実態把握すらままならない」んだろうな。プレーヤーの数を把握できる石油元売りとか地銀とは、意味合いが違う

アメリカとかでは、介護サービスの供給者は、日本より大手が寡占しているのだろうか?その辺の話を、業界人な人プリーズ

損保ジャパンによるワタミ介護買収は、その意味では「介護業界において、大手寡占になっていく」呼び水になるのかもしれない。強力な損保代理網を駆使して、ネットワーク化、フランチャイズ化していく将来キボンヌ

ワタミというのは、「零細がひしめく飲食業界」が出自だったから、思考方法が結局零細のママで、寡占を志向できなかった。/損保ジャパンは、出自が「規制業界で、プレーヤーが限られている金融保険業界」だから、何とか業界再編、寡占の方向へ持って行ってくれるのでは?

極論だが、自分の仮説は、「日本の介護サービスがダメな理由の半分位は、事業者が零細なせい」「介護業界で大手寡占が進めば、かなり効率化が進み、介護保険も健全化される」と思ってるが、これ厚生労働省では絶対受け入れられないよね?

セブンイレブンというのは、その辺実に上手かったな。零細な酒屋とかをしっかり活用しながら、対消費者向けには、「セブンイレブンという巨大店舗網」が存在しているように見える/損保ジャパンが目指すべき介護業界の再編は、セブンイレブン方式ではないか?

やっと自宅でのセミナー×2の議事録作成が終わった。下の子は邪魔して来るし。

@tetsukichi 「大手だからサービス水準がいい、中小だからサービス水準が悪い」ということはないでしょうね。個人零細飲食店も、外食チェーンも、味や価格が似たり寄ったりなのと一緒/「寡占した方が、利益蓄積によって新規投資や研究開発が進む」という効果は期待できそう

これ以前にもツイートしたケド、各県が農業試験所とか作って、零細農家に代わって、品種改良とかを代行している/であれば、各県で「介護試験所」を作って、零細介護事業者に代わって、介護サービスの研究とか代行すべき

これ知人の不動産関係者(最近介護も齧ってる)が言ってたが、地主によるサ高住建物建築とか底地提供は、若干は「経済的には非合理的な動機」も混じっているらしい。他にもっと有利な土地有活があっても、ある意味「義憤」「地域貢献」的な動機もあって、サ高住に貢献している

だから、そういう「経済的損得を超えた動機で、シニア住宅とか介護が普及している」のに対して、資本の論理で「ヘルスケアリートで効率化」とか「損保ジャパンによる寡占化」というのは、なかなか難しいと言えば難しい

@tetsukichi 「介護業界には寡占が足りない」と暴言を吐いてしまい失礼しました。目指すべきは「外食業界」とか「小売業界」かな?零細も存在しながら、業界のオピニオンリーダー的大手もいて、研究開発やIT投資にも積極的

@tetsukichi 介護業界で目指すべきは「強引な買収による業界再編」じゃなく「セブンイレブン的、フランチャイジーの確立」な気がする。買収によって業界再編させるのは、ものすごく時間が掛かってしまい、2025年問題に間に合わない

異業種がヘルスケアに参入する場合の最大の問題点は、「経営者自身の、過去に経験した介護体験」が「全て」だと思い込んでるから、介護全体の像を、なかなか理解してもらえない点なんだよね。認知症な親を持った経営者は、その時の経験ばかり重視して判断しちゃう。

「業界の全体地図を、なかなか可視化できない」という点が、介護業界の異業種参入が少ない点だったり、とも思う。なので、全体像を知らない異業種は、「経験がある分野、たまたま接点があった分野」だけ、つまみ食い参入しては失敗している/「業界全体の、水先案内人」が必要

@nken_ta ありがとうございます。アメリカでは介護サービスは大手3社寡占になってしまった、と/日本で介護業界を再編したいなら、アメリカの「介護史」に学べる点が多々ありそう。

介護サービスって、ある意味「地域保守」なクラスタが、採算とか度外視して運営している、という面もあったりする気がする。そういう面では、「地域保守」の体力を、ある程度温存しておくことが重要なんだよね。/トカイイシキタカイ民、湾岸クラスタな人に、地域保守というのを説明するのは難しそうだ

マイルドヤンキーなダンナが年収300万円な地域保守系建築会社で働き、その奥さんが年収200万円な地域保守系介護業者で働く。それで年収500万円でも、立派に子供を持てる。/その辺の数値感覚がインフレしているトカイイシキタカイ民に、この経済構造の理解は難しい

ツイッターの世界は広大だわ。「介護業界を再編すべき理由」として、「そもそも、零細業者だと、キャッシュアウトとキャッシュイン(介護報酬受領)との間のタイムラグ(約3か月)すら、資金的に耐える余裕がないから」との指摘は、自分も気づかなかった事実で、目ウロコ

脱サラして「介護に新規参入しよう!」なんて人は、その辺の「キャッシュフローのタイムラグ」なんかに気づくことなく、そのまま起業してしまうんだろうな。で、気付いた時には資金回転で首が回らなくなって廃業とか?/その辺のタイムラグを周知しないから、無知による介護参入が更に増える

N的まにあ様の、ヘルスケアリートに関する考察連ツイがスゴイ/この辺の本音ベースな話に一切触れずに、タテマエだけな話に終始した某セミナー(JA共済ビルで11月4日であった)は、なんか「セミナーの為だけの、セミナー」な感じがして、申し訳ないが、眠かった

キャッシュアウト、キャッシュインのスケジュール管理というのは、実は経営のキモだったりするんだが、意外と起業する人って、その辺アバウトだったりするんだよね。そうなると「黒字倒産」という、何とも勿体ない話になる/確定した将来債権を割引してキャッシュ化する金融が、もっと普及すれば・・・

農業の新規参入でも、その辺がネックになったりする。土づくりから本格的に始めて、ホンモノの農産物作るのに、半年じゃあ無理で、まず数年掛かったり/その辺のタイムラグを埋めるのに、実はクラウドファンディングが一番適しているのでは?

@nken_ta 「オトナの事情」って奴ですかね?

ヘルスケアリートの話題で大いに盛り上がってしまったから、インフラリート関係者の「なぜインフラリートは盛り上がらないんだろう?ライバルが現れてくれないと、市場が注目されないから困る」というセミナーでの嘆きを紹介する紙幅が無くなってしまった

一言だけ付言するとインフラリートが盛り上がらない最大の理由は「自治体担当者の無知」に依るのが大きいらしい。「3年後、自治体会計に複式簿記が強制導入されるのに、危機感のない担当者が多すぎる。今のうちに自治体バランスシートを(インフラリート化で)改善しないと、後々困るのに」とのこと。