【宮脇俊三とライターの極意】

4月1日
鉄道紀行家・宮脇俊三の「殺意の風景」を再読/改めて感じたのは、宮枠俊三氏が「アカデミック業界の裏事情に通じている」こと。元が中央公論編集者で、かつ理系も文系もマスターした人だから、アカデミック界のホンネに詳しい
民俗学や地質学でくすぶっている人のホンネも書いている。「考古学の方が民俗学より世間的に注目されている」「考古学者は民俗学の領域へ侵犯したがっている」「地質学は、ボスが指定した地域の地質調査しかできない。地質的に面白くないA川流域を研究するように教授に言われて癪だ」
しかも短編集なので、効率よくアカデミー界の裏事情をダイジェストで把握できる。/こういう「各業界の研究者のホンネ」をダイジェストしている著作って、ないのだろうか?作者に相当な技量が要求されるが
4月2日
アジア貧乏旅行ライターの下川氏の著書にあったネタ。下川氏はタイにしばらく移住してた。東京の編集者は、下川氏にバンコクの小ネタをファックス(昔なので)で送ってくれと依頼。滞在当初、下川氏は「こんなネタでいいのかなあ」と思いながら、大して取材もせずにネタを送ったら、結構ウケた。
で、バンコク滞在が数か月経過し、バンコクに慣れた下川氏は、「本格的に取材して」自信作のレポートを東京に送った。/しかし「下川氏渾身の力作」は、東京では評価されず。「滞在当初のレポートの方が新鮮で良かった。今の下川氏のネタは、日本人向けというよりバンコク駐在法人向け。入り込み過ぎ」
×駐在法人、○駐在邦人
つまり、ライターというのは、取材対象に深く足を突っ込み過ぎると、一般人向けのエントリにならない、一般人受けしない、という教訓。専門家向けだと話は別だが、一般読者向けのレポートなら、対象を1週間〜1か月程度調査してレポートする程度で丁度じゃないか?
例えば、業界物語的な話、大病院の話、化学業界の話、葬儀業界の話、ペット業界の話・・・いずれも、1週間〜1か月程度の取材で読み物にするのが、一般人相手だと丁度いい。これが1年も2年も同じ取材対象に向き合うと、取材する側も専門バカになる。
先日「宮脇俊三の殺意の風景には、いろんな学会の裏事情が書いてある(民俗学学会とか地質学会とか)」とツイートした。/元編集者である宮脇氏は、「取材対象と、1週間〜1か月向き合う」という経験を積み重ね、「適度に業界を広く知っている」状態だったのでは?
逆に言えば、宮脇氏は取材対象と1年以上も向き合うことがなかった。そんなことしたら「新鮮な目」「一般人の視点」を失っちゃう。
宮脇俊三氏が、上手にモノを書くコツを聞かれたときのエピソードが至言。「一番盛り上がっているところ、作者の思い入れが強いところ、敢えてその部分を削る勇気を持つこと」。「作者が自分の作品に酔ってるのが一番いけない。作者が酔ってしまうと、読者はシラケる」