夏目漱石「それから」読書メモ

6月1日
やっとこさ夏目漱石「それから」読了/主人公の父親は山手線円の南側(青山)に住み、主人公及びヒロインは山手線円の北側に住む/微妙な「地ぐらい格差」が描かれている
「それから」では、「電車」(東京市電)が名脇役な気がする。しばし電車に乗るシーンがある/悲劇的なエンディングで「自分の頭が焼け尽きるまで電車に乗って行こう」とある。つまりここでは電車は単なる乗り物じゃなく、主人公の運命をも飲み込む奔流として比喩されてる
夏目漱石自体、電車という乗り物に対してかなり思い入れがあるように見受けられる。力強さと未来性を電車の中に見出だしてる/一方、夏目漱石は「汽車」に対しては、その種の思い入れは無いようだ
主人公の友人(平岡)は、大学時代は帝都にいたようだが、社会に出て、ヒロインと結婚してから「京阪地区の銀行の支店」に転出した、とある/地理マニアとしては「京阪地区」という表現に注目したい
何が言いたいか?というと、「京阪神地区」、ましてや「阪神地区」という表現を夏目漱石が取らなかったこと/つまり、「明治末期の時点では、まだ神戸市は6大都市の仲間入りをしてなかった」ことが、こういう何気ない表現から読み取れる
というか、今だと「関西の・・」という表現をする筈。つまり、明治末期時点では「関西」という表現が普及してなかったことも、読み取れる
「それから」を見てると、結構「手紙」を多用している。郵便手紙を利用してるんじゃなく、書生に手紙を言付けて、配達させてるようだ/逆に言えば、この物語、昭和のように「上流家庭には、大概電話が普及してる時代」には物語が成立しないのでは?
丁度「めぞん一刻」が、呼び出し電話だからマンガが成立してる(携帯電話時代だとマンガにならない)のと一緒
「それから」は「日本初の近代不倫小説」という言われ方をされる/となると、牛込台地や音羽台地は、当時の「たまプラーザ」(金妻)な訳だ/「新興住宅地」という共通項がある
「主人公は牛込台地に住んでいて、ヒロインは音羽台地に住んでいて、間に神田川を挟んでる点が、二人が結ばれない点を暗示してる」という深読み解説があった/金妻で言えば、一方は田園都市線沿線で、一方が小田急沿線みたいなものか?