メモ・日本不動産研究所ビル市況予測

2015年11月13日 不動産ソリューションフェア
「東京・大阪・名古屋のオフィス市況と今後の見通し」
日本不動産研究所 手島健

三鬼商事と共同で「オフィス市場動向研究会」作り、1997からオフィス市況分析

★募集賃料じゃなく成約賃料で分析。
  及び、ヘドニック分析により「品質調整済み」補正データを利用。
 ・ヘドニック補正をしないと、「たまたま大規模ビルが供給された年」が高くなって、
  「たまたま小規模ビルしか供給されなかった年」が低くなっちゃう。
 ・成約賃料:募集賃料より「好景気では高くなり、不景気では一段安」となる
 ・2015から「支払賃料」ベースじゃなく「共益費込賃料」ベースでの分析に変更
  (最近、共益費込が過半数になってるので)
 ・イメージとしては「大丸有のSクラス」じゃなく
  「1.5等地の、例えば神田にあるようなビル」の賃料をイメージ。

★東京:2010=100とすると、バブル期は「277」だった。(資料11頁)
 予想以上に高くて、驚いている。
 このころは、大手町だと坪10万円もしていた。
 その後バブル崩壊で100強まで下がり、それがミニバブルで「149」にまで上がり、
 リーマンで一気に下がる。
 2011〜2に「92」にまで下がった後に反転し、2014には「100」に持ち直した。
 ざっくりいうと「277」⇒「100」⇒「149」⇒「100」
 ミニバブル期でも、本物バブルの約半分と言う水準。
 東京は「やっとこれから上昇かな?」という感じ。
 ・リアルな感覚では、(1.5等地ビル前提で)
   2004年「2.0万円/坪」
  →2008年「3.0万円/坪」
  →2013年「1.9万円/坪」
  →2014年「2.0万円/坪」という感じ。まだ2008年の3分の2。

★東京:(半年毎の観測で)2012年6月までは賃料下落・空室率上昇。
 ・2012年12月は空室率は少し低下(6月9.43%⇒12月8.67%)。
  但し賃料はわずかに下落
 ・その後アベノミクス本格化で、2013/12に本格回復。空室率低下、賃料上昇
  ただ、賃料も「3%」上昇で、単なる値戻しレベル。本格的回復じゃなかった。
 ・2014/12:空室率は大きく低下するも(5.47%)、賃料上昇幅は予想より小幅に留まった。
  消費増税による経済の減速が原因
 ・2015年:供給が少ないので、空室率が5%割れとなり、更に賃料の本格上昇につながるか。
  (今までは単なる「値戻し」)
  景気が腰折れするのが、怖い
 ・オフィス売買市場は活況。キャップレート低下。
  だが、賃料の方は「動きが鈍い」。
  2010=100として、未だに「100に戻した程度」
 ・価格帯によって状況が違う。(資料P14)
  「2万円クラスが活況で、3.5万円超の高額クラスの動きが鈍い」
  2万円クラスは賃料上昇な話も多い。
  一方で最近竣工大型ビルの多くは3万円台の賃料を付けて、動き鈍い。
 ・募集賃料:2013年12月から21ヶ月連続で上昇。上昇幅9%。
  「約2年で、9%『しか』上がってない」というのが実感
 ・渋谷区は直近3%を割った。
  3%を割ると賃料が上がりだすのだが、
  「いい物件は既に先約が入ってるから、決まりづらくなってる」とも言える。
  (空室の3%は、誰も入りたがらない不人気案件)

★大阪の状況(資料16頁等)
  ・大阪の経済力そのものは弱い。なのに空室率低下。何故?
   ・・・大阪郊外(東大阪とか)から企業が梅田にやってきている。
   (もとの本社は売却してしまう)
   その手の自社ビルを高値で買い取ろうとする業者がいる。
  ・加えて、都心でも築古ビルが、オフィスに建て替わらずに、マンションに建て替わる
   その分の床ニーズが溢れてしまって、需要となる。
   つまり、総需要が増えたというより、供給側の要因。
  ・大阪だと、2万?程度の大ビルが、ビル再建されずにマンションになってしまう。
   東京だと、それくらい大きければ、再度ビルになる。

★資料19頁以降、機関投資家意識調査
 ・ファンドバブル期と比較して、現況を「(同程度というより)活発」と答える人が4割いる
  (資料P22)
  売買自体は「活発」
 ・「活発」と答えた人に理由を聞くと「今回はアジア・中東系マネーが来てる」が理由一位。
 ・活況なセクターは「物流」「ビジネスホテル」
  「オフィスセクターが活況」と答える人は少ない。
 ・対象エリアの回答は、「東京」との回答が圧倒的。(資料P25)
  ファンドバブル時は、もっと「地方」との回答が多かったのだが。
 ・期待利回り:「ファンドバブル期と同程度」の回答が最多な一方、
  「ファンドバブル期より期待利回りが低くなった」も2〜3割存在。「高くなった」より多い。
  (資料P26)
 ・「期待利回りが低下した」と回答した人に「なぜ下がったか?」を聞くと、
  「現状賃料が安く、今後の賃料アップが見込めるため」が最多(資料P27)
 ・現市況の過熱感をヒアリングすると(P28)、「過熱」との回答が2割程度存在し、
  その理由を聞くと「賃料上昇に対して楽観的過ぎるから」が最多(P29)
 ・つまり、
  ?「この先、賃料が上がるだろう」と判断する人は、期待利回りも下げている
  ?「この先、賃料はあまり上がらない」と判断する人は、「現状は過熱している」と警戒している。
  よって、「今後賃料がどう推移するのか?」の予測が重要。
 ・将来予測では「この状況が2018まで続く」との関係者が最多、
  次に多いのは「2020まで続く」(P31)

★今後の市況予測:日本経済研究センター値を採用(P34)
 「2017年に消費増税で一時的に落ち込むが、他は概ね1%成長」という前提
 ・東京:従来なら「数年に1度の大量供給」のボリュームが、この先連続する。
  (2003年・2007年・2012年⇒2016年・2018年・2019年、P39)
 ・2019年:56万坪の大量供給。「60万坪を超える」説も。
 ・「5万坪以上のビッグプロジェクト」が東京に集中(P40)。
  2015〜19で13プロジェクト。大阪名古屋はゼロ。
 ・大阪:6万坪が平年供給量なのに、’16年0.5万坪、’17年6.5万坪、’18年3万坪と
  供給は少な目で推移予想。

★2016迄の短期予測
 ・空室率 2015=4.4%、2016=4.3%
 ・賃料指数 2015=108、2016=115 (’15→’16で6%上昇)
 ・新規供給が多いが、空室率が低いので、賃料への影響は少ない
 
★2020迄の中期予測
 ・2017〜18は、空室率も4%台前半、賃料も上昇。
 ・2019で反転(潮目)。大量供給が一因。
  2019、2020と賃料は1%程度下落に転じ、空室率も4%台後半から5%へ悪化。
  約3年間は下がるのでは?
 ・ただ、空室率も「そんなに悪化する訳では、ない」。5%程度。

★2025迄の長期予測
 ・その後賃料微増、空室率微減。
 ・2025で空室率4.4%、賃料指数122程度か?
  2014=100なので「そこまで(2割も)上がるのか?」と思われるかもしれないが、
  実感的には「今2万円/坪なビルが、将来2.5万円/坪になる」というだけの話。
  ミニバブル期には3万円/坪はしていたビルだから、さほど違和感ない。

★市況予測は年2回実施。
 春の予測と比較すると、「2019の大量供給予測」を受け、予測を下方修正(P47)
 ・この辺、関係者の「2018年がピーク」な話と符合
 ・ただ、「2020年の供給は、10〜15万坪と少ないから、
  2019・20年の平均で考えれば、そんなに心配ない」な意見も。

★予測の考察(P48)
 ・(足を引っ張ってた)「バーゲン的格安賃料」が解消するだけで、
  「平均」の賃料が「上昇」することになる。
  そういう「上昇」は、「上昇実感に乏しい」ということになる。
 ・「賃料上昇の勢いが弱い一因」として
  「以前の空室率5%」と「今の空室率5%」だと「分母が違う」というのがある。
  今の方が分母のストックが多い(累積ストックが多い)
  ⇒「5%を4.9%に改善する」為に必要な需要が、昔より増えてしまってる。