一般財団法人 日本不動産研究所 定例講演会
「2017年の日本経済と不動産市場」
2016年12月9日 13:15〜16:00@有楽町マリオン朝日ホール
「研究報告 2017年の不動産市場」
一般財団法人 日本不動産研究所 不動産エコノミスト 吉野 薫 氏
★昨年末の講演内容が正しかったかどうか、自己採点
→概ね合ってる
(利回りは踊り場、賃料は緩やかに上昇、資産価格も緩慢に上昇)
・資料3頁・4頁、期待利回りの低下は下げ止まっている
・資料5頁、REITに物件が集まっている
→REITは過剰な利回り低下を許容しない
(結果的に、日本の不動産の安定化に繋がってる)
★資料7頁、今回の地価上昇の特徴
・ミニバブル期みたいな急上昇じゃない。上昇が緩慢
・3大都市圏と地方で2極化
3大都市圏は上昇、地方は(下落幅は下がってるが)下落が続いている
・資料8頁、東京都の地価上昇を
「地価」と「上昇率」でプロット、H19とH28で比較
→H28は大幅上昇地点が少なく、上がりが緩やかな地点も多い。
都市部の内部でも地価上昇は二極化してる。
★資料9頁、不動産取引金額は徐々に減少
投資家は「取引に慎重」になってる(心理的にはバブルではない)。
・また、外資クラスタは「物件取得してる」のと同時に「物件売却もしてる」
・・・「外人は爆買い」してる訳じゃない(=バブルじゃない)
★資料10頁、オフィス空室率の低下は続く
・「オフィス空室率・賃料」と「企業の設備投資」は正相関にある。(資料11頁)
ここのところ企業の設備投資は堅調なので(資料10頁右)、それでオフィス市況も堅調
★資料12ページ、不動産投資家の「将来賃料の見立て」
・ミニバブル時は、「数年後には(今より)10%賃料上がってる」の見立てだった
→今は「数年後でも、賃料は今より5%程度しか上がらない」と見立てている。
(→不動産投資家も、将来見立てに慎重。バブルじゃない)
★「今はバブルじゃないの?」と言ってる人は、不動産融資が急増していることを問題視してる。
それを検証すると
・資料13頁左、2013〜2014の頃は、中堅中小不動産業はファイナンス的に厳しかった
→2015〜2016になると、中堅中小不動産業も、ファイナンス的にラクになってる。
・資料13頁右、不動産業向け貸出残高は、一貫して増えている
これらの事実は、事実として受け止めなければならない。
・では、貸出の増加を「危険視」すべきか?
資料14頁左、「REIT」と「1部上場不動産会社」の借入が増えている。
今回の不動産融資増は「信用度の高い借り手」向けが中心(危険じゃない)
・資料14頁右、個人向け住宅融資の動向
「新規貸出」(グラフ青線)は対前年で増えているが、
「残高」(グラフ赤線)は対前年でも、そんなに増えてない
(=今回の新規貸出増は「借り換え」が主因)
→住宅ローン市場は「過熱化」はしてない。(諸外国とは違う)
⇒不動産融資から見ても、バブルとは言えない
★ただ、地域金融機関のアパートローンの増加には要警戒
(「大都市圏」というより、地方圏の地銀・信金等で要警戒)
・日銀も警戒感を表している
・「入居率100%で、当初賃料が20年続く」といった(常識ではあり得ない)設定で、
アパート貸し出ししているケースも。
・大規模修繕を考慮せずに貸出してるケースも。
・但し、短期的に影響出る話でもない。
★ここで、一旦小休止、カタい話しをする。
・資料17頁、「住生活基本計画」が閣議決定された
→「望ましい住宅の広さ」として
「都心部で4人家族で95平米、それ以外で125平米」とされている。
(相当に、広い)
・実際に「望ましい広さの住宅に住んでいる人」の割合は、
持家で74.2%、借家で30.4%しかない
→この部分に、投資余地があると言えないか?
・また資料19頁にあるように、「M字カーブ」が縮小し(=女性の社会進出)、
単身世帯数も増えている
これらの「働き方・住まい方の変化」は、人口減よりも重要であり、
そこに投資機会がある。
→不動産・住宅業界は、決して斜陽産業ではない。
★では、2017年はどうなるか?
その予測には
?不動産実需の動向 ?デットファイナンスの影響 ?エクイティファイナンスの影響
に整理して分析すると有効
★実需の動向
・先述の通り、「オフィス市況と企業設備投資は相関関係にある」
→今後の設備投資意欲を見てみると「緩慢ではあるが、回復途上」(資料23頁)
(熊本地震やブレクジットでも、設備投資意欲は衰えず)
・なので、2017年のオフィス賃料は上昇が続く公算大(資料24頁左)
・マンションの賃料・分譲価格予測も今年からスタートさせた(資料24頁右)
賃料はじわじわと2025まで上昇、分譲価格は2020まで上昇
★金融政策について
・2016年7月29日に、金融政策が微妙に変化している。
それまでは首尾一貫していた。
資料25頁で、上段と下段で色を変えてるのは、そういうこと。
・2016年7月以前の金融政策は「サプライズ感の演出」がキモだった。
資料26頁、2014年10月の政策転換時も、その3日前までは逆のことを言っていた。
資料27頁、マイナス金利導入時も、一週間前にはマイナス金利政策を否定していた。
・2016年7月以前の金融政策:国債金利の押し下げが主目的
実際、順調に下がってきた
・2016年7月以降の金融政策:ETF=株式の買い入れ
これはつまりリスク許容資産の買い入れということで、債券選好度の低下(=金利上昇要因)となる
・2016年7月以降の金融政策:「総括的な検証」を予告
→サプライズ感は乏しくなる。
・2016年7月金融緩和:「金融機関向けのドルオペ担保国債の日銀貸付」が、隠れたポイント
★2%の物価上昇目標:「人々が、2%上がると信じる」ことが、実際の物価目標実現に必要
・資料33頁左、企業の物価見通しは年々低下している。
「2%」は程遠い。
・(世の中で、一番物価上昇を期待しているハズの)日銀政策委員の物価見通しが資料33頁右
2016年1月には「17年度前半頃(=2017年9月)に2%」と言ってたのが、
2016年10月には「18年度頃(=2019年3月)」と大幅に後ずれ
・つまり、「しばらくは、金融緩和を継続せざるを得ない」
★マイナス金利が不動産投資家意識に与えた影響
・資料34頁の皆さんお手元の資料は「2016年4月」の投資家意識グラフ
この頃は「期待利回りが下がる」「レンダーが貸出に積極的になる」「エクイティ投資家は積極的になる」
と回答した人が多かった
・同じ調査を10月に行った。(お手元資料は間に合わなかった、パワポ見てくれ)
→「期待利回りが変わらない」「レンダーの貸出姿勢に変化なし」
「エクイティ投資家の投資姿勢に変化なし」な回答が増える
結局、マイナス金利でも、不動産投資家の意識はそんなに変わってはいない。
・資料35頁、「期待利回りを、マイナス金利でも変えない」と回答した投資家が大多数。
(4月調査でも、10月調査でも)
★IMFの世界経済見通し、10月は見通しを維持
(=Brexitの影響は少なかった)
・日本国内のBrexitの反応も、短期間で収束した(資料39頁)
・「Brexit」「トランプ当選」:結果的には大ショックには至らなかった
ただ、『「テールリスク」が「起こりえないリスク」ということではない』と言うことが
人々は判ってしまった。
・Brexitで英国OEICファンド市場(日本の私募リート市場に相当)は一時的に混乱するも、
その後回復(資料41頁)
・日本の不動産投資家の意識
?「Brexitは世界に影響するか?」→55%が「影響しない」、41%が「悪く影響する」と回答
?「Brexitは日本に影響するか?」→76%が「影響しない」、11%が「悪く影響する」と回答
?「Brexitは貴方に影響するか?」→92%が「影響しない」、4%が「悪く影響する」と回答
→殆どの人は、Brexitの影響を気にしていない。
・トランプ当選の影響・・・よく判らないが、少なくとも2つのことが判った
?短期的な心理的悪化は、起こってない
不確実性指標や、VIX指数は、スグに収束した
?金利上昇要因になってる。
実際に米住宅ローン金利はアップしてるし、ローン申込件数は年の半ばから減っている。
★各国で不動産価格高騰の抑制策が採られている(資料43頁)
・サンフランシスコも、最近では急騰が止まっている
★欧州:2017年は政治イベントが目白押し
日本は2018年に政治イベント(黒田総裁任期切れ、安部総裁任期満了)
丁度2018年にオフィスの大量供給がなされる
・昨年末に「潮目は2018年」とトークしたが、その見解を今年も維持する。
・投資家の中でも「潮目は2018年」がコンセンサス(資料46頁)
★結論:2017年は「熱い凪の状態」に。(風が止まった状態)
・利回りは「踊り場」に。下げ渋り。金融政策での感度が鈍る。
・賃料は底堅い動き(2017年までは)。
・資産価格も緩慢に上昇基調
・一部の強気プレーヤーが相場の牽引役に