「エコ・コンパクトシティ」のセミナーログ

「エコ・コンパクトシティ」のセミナーログをアップしておきます。
1月26日に早稲田大学会議場でありました。


【所見】
・「首都圏向け」ではなく「地方都市向け」のテーマ
・参加者の相当程度が自治体の街づくりの担当者。
・どの講演者も
 「都市の無秩序なスプロールを抑制すべし、
 公共交通徒歩圏内に市街地を集約すべし」と主張しているが、
 「市街地集約を図るための政策手段」については、事実上「妙案がない」状態。
 また、「集約化によって取り残される遊休地・交通不便地」の処遇も
 「妙案がない」状態。
国交省も、コンパクトシティ化誘導のための政策案をそれなりに用意していたが、
 「政権交代」のために、「政策案の修正を要するかどうか、様子見」している状態。
・ただ、長期的なトレンドとしては、国や地方自治体の政策が「コンパクトシティ化促進」
 (スプロール抑制)に変化することは確実で、都市計画法
 コンパクトシティ化に沿った内容に改訂される可能性大。


【岸井隆幸 日本大学教授=イントロ講演】
・今後、人口が減り、かつ「高齢単身世帯」が増加する。しかも地方都市は高齢化率高い。
 都市造りもその対策を考える必要があり。
・自動車に頼らない街づくりに転換しなければ、
 アメリカのような「都心部の過半を駐車場&道路が占める」非効率都市になる。
・1968年都市計画法は、「都市の膨張に対して規制を掛ける」というコンセプト。
 (「都市の拡大」が大前提) 
 今後求められる都市計画法は、都市の「縮退」を前提として、
 「(量ではなく)多様な質」を求めるべき。
 そのためには、道具となる法律も、多種多様に用意する必要がある。
・「地方分権」によって、「地方が都市計画を担う」ということになっているが、
 地方にその能力が果たしてあるのか?
 市町村の半分は人口は2.5万人以下。
 金も専門家も不足している。
 都市計画のマスタープランなどは都道府県にした方がいいのでは?
自治体単独だと能力不足なので、
 自治体同士、あるいは官民で協働させるのがいい。
 都市政策に「協働させる仕組み作り」を盛り込めないか?
・ボストンの中心部リニューアルが参考になる。
 高速を地下化し、かつ都市インフラも更新(全米最大級の公共事業)
コンパクトシティ化で市街地は集約の方向に進み、
 農業も集約化の方向に進む、となると、
 「都市にも農村にも組み込まれない土地」が大量に発生する。
 これをどう扱うか、が課題。
 たとえば、「越谷レイクタウン」は遊休地を調整池として使用している。
 それも一案。 
・「日本ならでは」の都市空間創出ができないか?
・「インフラの更新」も都市計画に盛り込むべきではないか?
都市計画決定自体も、PDCAサイクルで常に見直しを図るよう
 制度化すべきではないか?
 最近、都市計画に対して司法が否定している判決が続出している。
 時代遅れの都市計画を放置すれば、都市計画の信頼性が揺らぐ。


【松谷春敏 国土交通省審議官=国交省の問題意識】
・「本来なら、国交省が目指している『都市計画のあり方』を
  お話したいところだが、政権交代によって軌道修正を要する可能性も
  あるので、その話はできない」
・今後このまま「公共投資予算の削減が続く」と、
 2022年以降、「維持更新費用が予算額を上回る」
 つまり、維持更新すらできない状況に追い込まれる。
・公共交通をもっと重視すべき。
 欧州では「公共交通は公的セクターが担うもの」とされている。
 日本では民営交通事業者が主力で、公営交通も企業会計的運営がされているが、
 「公設民営方式」をもっと活用すべき。
・公共交通需要喚起の働きかけをしてもいい。
 例えば、企業へ自家用車通勤自粛・公共交通利用を呼びかけ、
 それに対するインセンティブを与える、など。
・公共交通手段としてのLRTは費用が嵩むが、
 バスを高度化したBRTなら費用は抑えられる。石岡市でBRTの実験している。
・自転車利用も積極的に活用したい。
 また、自動車も、カーシェア化やエコカー化を図りたい。
 (→充電インフラの整備が不可欠)
・都市へ集積することは、実はCO2対策になる。
 集積することによって、地域冷暖房を導入するなどの対策も取れるし、
 公共交通利用も促進される。
 大丸有も、実は集積することでCO2が減らせる、という試算がある。
・地方都市で進められている「都心居住」、
 これは福祉や医療とセットで整備すべし。
・コンパクト化によって生まれる遊休地をどう扱うべきか、
 それは課題として残る。 
富山市は「環境モデル都市」として活動しているが、
 実は環境指標の計算過程は結構アバウト。
 国としては、環境指標の計算ガイドラインも提示していきたい。
・どうやってコンパクトシティへ「誘導」できるのか、その政策も課題。
 政策なしで放置すれば、スプロール状態のまま人口が
 「広く薄く過疎化」してしまい、最悪の状態になる。
・「2050年の仙台都市圏」
 ・・・CO2排出量を24%減としたが、その内訳は
 ?人口減によるCO2減=7.1%
 ?交通政策によるCO2減=4.9%
 ?コンパクトシティ化によるCO2減=12.0%
 つまり、交通政策によるCO2対策には限界があり、それよりもコンパクトシティ化の方が
 はるかに対策になる。
国土交通省としては、鳩山政権に対して
 「成長戦略としての住宅・都市政策」を訴えたい。
・1968年都市計画法を抜本的に変える時が来ているが、どのように変えるべきか?
 いろんな論点がある。
 ・環境的側面や歴史的側面も加味すべきか?
 ・インフラ管理、マネジメントの要素も加味すべきか?
  (例=現行都計法は道路の巾員は決めれるが、
   車線数、歩道幅、緑地率、自転車道LRTなどは盛り込めない。盛り込めるようにすべきか?)
 ・決定主体はどこにするか?(国?県?市?)
 ・民をどこまで決定に関与させるか?
 ・税源をどうする?(都計税、固資税)


【岡部明子 千葉大学大学院准教授=欧州の実例】
・欧州は「サスティナブルシティ」の本場だが、実は欧州でも2通りの考え方がある。
 1)「社会対策と経済の両立」(オーストリア、スペイン)
    ・・・日本で「ソーシャルビジネス」と呼ばれている事業に近い
 2)「環境対策と経済の両立」(英仏独)
 「サスティナブルシティ」は、本来は「社会対策」として、ウィーンのスラムで始まった。
 その後スペインでも「スラム対策のサスティナブルシティ」が広まった。
 当初は全市域ではなく、地域限定の政策だった。
 それに対抗して「環境対策を旗印」としたサスティナブルシティが英仏独で始まった。
 日本では英仏独のことしか報じられないので、「サスティナブルシティ=環境都市」と
 早合点されるが、本来はそうではない。
・欧州の場合、サスティナブルシティというのが、
 「機能的都市計画に対するアンチテーゼ」「(中世欧州のような)機能混在都市へのノスタルジー
 という側面もある。
 なので、「修理」「修復」というのがキーワードになる。
オーストリア、シュタインバッハ(人口2,000人)
 バイオマス利用でCO2半減に成功
・他方、ミュンヘンは当初「コンパクトシティ」でCO2削減しようと取り組んだが、
 うまくいかなかった。
 (都心居住者が、「週末は郊外へ遊びに行く」ので、交通CO2があまり減らなかった)
 そのため、「既存建物の断熱改修」へ政策重点を変更した。
 柔軟な政策見直しがサスティナブルシティ成功の鍵。
・欧州各自治体・・・「オールボー憲章」や「気候同盟」に参加
 「オールボー憲章」=社会対策的サスティナブルシティの流れを汲む。
           地中海側の都市が数多く参加。
           CO2削減は「1人当り排出量上限」。
           (CO2削減はサスティナブルシティの10指標のうちの1つに過ぎない)  
 「気候同盟」=環境対策的サスティナブルシティの流れを汲む。
        ドイツの都市が数多く参加。
        CO2削減は「半減」。


【中出文平 長岡技術科学大学 教授=富山等の実例】
・現在の都市計画法・・・「自然生態系への配慮」という観点が希薄。
長岡市・・・1970年までは、まだDIDも「旧市街地」内に留まっていた。
 →1990年代後半までの20年間に、一気にスプロール化が進行。
コンパクトシティ・・・市民には「街を小さくするのではなく、街にメリハリをつける」と説明している。
富山市コンパクトシティ・・・コンセプトは「団子と串」
 集約市街地が公共交通機関拠点(駅・バス)から徒歩圏内に同心円状に集まっている=「団子」
 その団子を通っている「串」が公共交通機関
 (参考=青森のコンパクトシティは一極集中型)
富山市・・・「居住促進エリア」には、補助金を居住者へデベにも支給する。
富山市居住促進エリアでは、「無秩序なマンション開発を避け、品格ある住宅地を作る」ため、
 「あえて容積率をダウンサイジングしている」ケースもある。
富山市コンパクトシティの課題
 ?拠点となる「駅」が貧弱。(駅前広場もない)
 ?「取り残される」郊外団地の対策
高岡市の場合、駅前再開発に高校を誘致した。
 公共交通拠点内に学校等を移動させることも必要。
・イギリスの試算
 7,500人のコミュニティ維持のためには、50人/haでは半径780mが必要。
 100人/haでは半径610mが必要。
 150人/haでは半径540mでいい。
 →徒歩圏内に集約するには、やはり150人/haにしたい。


【宮本和明 東京都市大学教授=仙台の実例】
・地方スプロール都市は、いわば「メタボ都市」
 生活習慣病なので、生活を改善(=クルマ依存を脱却)しなければならない。
・太った人があえて「細いズボン」を買えば、痩せようと努力する。
 それと同じで、公共交通重視政策(=細いズボン)にすれば、
 自然と痩せよう(=スプロール解消)へ動く。
・仙台・・・交通政策と都市政策をリンクさせている。
・従来の交通政策は、
 「人間は、(居住地を所与の条件として)目的地に合わせて交通インフラの選択を考える」
  という発想だった。
 今後は
 「人間は、交通インフラに応じて居住地を決定する」
  と逆転の発想をする。
 従って、交通政策&都市政策としては、
 「長期的に、交通インフラが整った場所に居住してもらうように誘導する」ことになる。
・従来型交通政策では、スプロール市街地にのんべんだらりと公共交通を整備する必要があり、
 べらぼうにコストが嵩んだ。
 今後の政策では、「交通インフラは都市財政に合った規模に留め、
 市街地の方を交通インフラに合わせて縮小してもらう」ようにする。
・仙台都市圏の中で「交通インフラ満足地&満足予定地」と
 「将来的にも、交通インフラ不足が続くエリア(交通不利地)」の線引き作業を行った。
 →飛び地的に存在する住宅団地の一部は「交通不利地」として残ってしまう。
河北新報に「仙台圏の9団地が交通不利地として残る」と報道され、大きな反響があった。
 反響を起こったこと自体、大きな成果。
東北大学等の学生教職員に、定額で公営交通が乗れる企画切符を用意した。
 現在学生などは公共交通が不便で家賃が安いアパートからバイク通学しているが、
 交通事故などの問題が出る。
 これを「駅近のアパート」に住んでもらえるようなインセンティブにしたい。
 長期的には教職員も駅近に住んでもらえるよう誘導したい。 
コンパクトシティ実現のためには、交通政策と都市政策の融合に見られるように、
 各界との利害調整が不可欠。そのためには強力な調整機関が必要。


【出口敦 九州大学大学院 教授=福岡の実例】
・大規模店舗規制が福岡でも問題になっている。
 従来のままでは、都市計画区域外にいくらでも出店可能だったので、
 これを阻止すべく、「準都市計画区域」を広域に設定した。
・大規模店舗は、「撤退」した時に大問題となる。
 「撤退対策時用の基金を拠出させる」とか「事業者にマニフェスト出させる」という
 案はあるが、妙案がない。
・県で「大規模店舗出店が望ましい拠点」を県内110箇所設定し、
 できるだけそちらへ出店してもらうよう政策誘導している。
 (街中で公共交通がある場所)
・「準都市計画区域」・・・機械的に県内全域に指定してしまうと、
 「伝統的建造物群保存地区に指定されていない歴史的町並み」までもが
 4m巾員規定などの適用を受け、町並みが破壊されてしまう。
 →歴史的町並み部分は除外せざるを得なかった。
 (例外運用させてくれ、と特区申請したが、国が認めず)
・現在の都市計画法・・・「低度利用への規制がない」ことが問題。
 これが中心部空洞化を招いている。
・震災・水害が相次いだ福岡の経験から、
 「災害に脆弱なエリアはコンパクトシティからはずすべき」。