『不如帰』の山科すれ違いはあの時代限定

明治時代に「不如帰」という小説があった。悲恋のカップルが、上り列車と下り列車にそれぞれ乗っていて、たまたま「山科」駅で単線行き違いをした際に相手を見つけ、会話を交わしたが無情にも列車は発車する、なストーリー/これって、この時代にしか成立しない小説だなあ

まず、そこそこに鉄道が普及した段階でないと、「鉄道を悲恋の舞台にする」という発想が出てこない。でも、もっと時代が下ってしまうと、今度は大幹線である東海道線は複線化されてしまい、「単線行き違いの生き別れ」が発生しなくなる

東海道以外の線なら、大正〜昭和でも単線だからそういう小説も成立するのかもしれないが、男性は兎も角女性側(深窓の令嬢)が、東海道線以外の「ローカル線」に乗ってる、という設定が、なかなか難しい

ましてや、戦後・高度成長後だと、優等列車の窓が機密性高まり開かなくなったから、『反対側の列車の乗客を見る』ということも出来なくなったんだろうなあ。

これ、上り列車も下り列車も、優等車両(1等車)の連結位置がほぼ一緒だったんだろうなあ。だからこそ、山科駅で、行き違い停車の際に『隣同士』になることになった

あと、東海道線優等列車本数も限られていたから、そういうすれ違い発生件数も少なかった。だから逆にすれ違いの際に相手を発見することが出来た/今みたいに、東京〜新大阪間で優等列車が上りも下りも100本あるようだと、いちいちすれ違いを気にすることは不可能

今だと『交通機関でばったりすれ違い』という小説の舞台設定が、果たして可能なんだろうか?東海道新幹線だと、『すれ違い』はまあ不可能。VIP同士が、ばったりグリーン車で同室、というのはあるかもしれないが。