植物工場のメリット・デメリット

植物工場のメリット・デメリットを少しまとめてみた。
これを見ると「新規参入するなら、なぜ植物工場にしないのか?」と
思ってしまう。

【メリット】
《収量面のメリット》
★立体化が可能
 ・理論上は土地当りの生産量を無限大にまで増加できる。

★温度・湿度をコントロールできる。
 ・季節に関係なく農作物の栽培が可能
  例:北海道で冬季に野菜ができる。
  (北海道は冬季に野菜不足で、他地域から移入している。)
 ・その土地にない作物の栽培可能(例:北海道でマンゴー)
 ・栽培の回転率のアップが可能(例:コメ3期作)

★照明をコントロールできる。
 ・24時間照明により、更なる生育速度アップが可能。
 ・LED照明の場合、光合成を促進する特殊照明が可能。
  光の波長(色)を変えたり、点滅(パルス)を発することにより成長が促進される。
  (太陽光は光合成に必ずしも最適ではない。)

★適切に肥料管理すれば、露地栽培のような「連作障害」を気にする必要がない。
 ・柔軟な栽培計画を立てられる(露地栽培の場合、輪作サイクルに縛られる)。

★フレキシブルな生産変更が可能。
 ・各農産物の市況を睨みながら「需要がある作物を集中生産」
  「供給過多な作物は生産中止」ということが出来る。

★圃場整備が不要、初年度から安定した売上を見込める。
 (露地農業の場合、「土づくり」の期間は生産が少ない)

★通年栽培化した場合、農機具を年間通して使用できる。
  →稼働率の上昇が見込める(機械の償却負担が軽減される)。

リスク管理上のメリット》
★異常気象(高温・低温)や災害(長雨・旱魃・台風・降雪・遅霜)の影響を受けない。
  ・不作リスクがないため、安定供給が可能。
  ・安定供給を至上命題とするスーパー、外食業者のニーズにマッチ。
  ・供給計画を立てやすい、つまり事業収支を立てやすい
  ・植物品種を、耐災害性でなく多収性・良味性のある品種を選ぶことができる。

《品質面のメリット》
★閉鎖系の場合、病虫害がないため、無農薬化が可能
  ・植物品種を、耐病虫性でなく多収性・良味性のある品種を選ぶことができる。
  ・閉鎖系の場合、隣接農地から飛来する農薬を懸念する必要がない。
   (ポジティブリスト対策が不要)
  ・無農薬野菜・・・水洗い不要となり、食品加工業・外食業のニーズにマッチ。

★閉鎖系の場合、遺伝子組換えが可能

★作物の高機能化が容易 (養液調整により可能)

★鮮度アップ、長く日持ちさせることができる。(JFE「エコ作」)

★大きさや形状が一定になりやすく、見た目も保てる。
  →「規格外品が出荷出来ないロス」が少なくて済む。

★野菜の場合、「えぐみ」がなくなり食味が良くなる。(JFE「エコ作」)

★トレーサビリティと相性が良い→消費者の安心感を得られやすい。

★IT化と相性が良い→生産計画の改善を図りやすい。

労務的メリット》

★農作業が軽作業で、かつ簡単(マニュアル化できる)。
  ・素人でも栽培可能・・・パート化・低賃金化できる。
  ・農作業のマニュアル化・・・常に一定の品質を保つことができる(マクドナルド化)。
   →全国展開が可能になる。(「全国どこでもマクドナルドの味が同じ」の理屈)
  ・高齢者・障害者でも就労可能。(授産施設になりえる)

★農作業が安全になる。
  ・労働環境が良好・・・「農業=3K」のイメージを払拭できる。
  ・炎暑・極寒下の農作業から解放される。
  ・農機具等の事故から解放される。
  ・農薬散布の健康被害から解放される。

★雨天でも夜間でも農作業が可能。
   ・・・露地農業の場合雨天時には農作業を「休んでいた」が、植物工場では休む必要なし。

★完全自動化(ロボット化)と相性が良い。

★「農繁期」をなくすことが可能
  ・労働者が休暇を取りやすい。
  ・露地農業と組み合わせて、「露地農業の農繁期には植物工場の生産を落とし、
   露地農業の農閑期には植物工場の生産を増やす」のような生産調整が可能。

★「立体化・多段栽培化」により、農作業のための平面移動距離が減る。
  (移動時間の節約、移動に要するエネルギーの節約)

《資源的メリット》
★水資源の消費が少なくて済む
  ・農業用水の確保が容易となる。
  ・中東の引き合いが強い。

★適切な肥料管理を行うことにより、肥料使用量を抑えることができる。
  ・肥料代の節約になる。
  ・肥料を抑えた方が美味しくなる。
  ・廃水の環境負荷が少なくなる。

★Co2を膨大に消費するため、Co2の受け入れ先になりえる。
  (CO2排出権取引の対象になる可能性)

《社会的なメリット》
★立地上の制約がない。
  ・農地法上の「農地」が入手できなくても農業参入が可能。
  ・地勢的に「農業適地」とは言いがたい中山間地でも立地可能。
  ・都市立地(地産地消)が可能→鮮度を保てる上、輸送コストが少なくて済む。
  ・スーパーやレストラン内立地が可能。(究極の産直)
  ・病院内、学校内の立地が可能→テラピー効果や食育効果が見込める。
  ・オフィス内立地が可能→観葉植物同様のテラピー効果。
  ・個人宅内の立地が可能
   →家庭菜園的利用、もしくは副収入として栽培。
  ・農業困難地(例:南極や遠洋船舶内)における食物や野菜の供給手段になる。

《将来的なメリット》
★植物工場:わずか20年程度の歴史・・・技術改善の「糊しろ」が膨大。
  ・「植物工場に適した品種」の開発がまだまだされていない。
    逆に言えば、「植物工場に適した品種」の開発がなされれば、生産量はさらにアップする。
     例=耐災害性不要、耐病虫性不要
       背丈が低い品種の方がメリット大(栽培棚を多段化できる)。
       栽培速度が速い品種の方がメリット大(多毛作可能)。
       高温耐性品種の方がメリット大(植物工場は冷房の方が暖房より難しいため)。
  ・工場レイアウトも改善の余地あり。
     例=栽培棚を「植物の成育にあわせて高さを可変にする」
      →栽培棚数を増やすことが出来る(苗の時期は栽培棚を低くできるため)
     例=「作業員がかがみこまなくても作業できるように、
       作業する栽培棚が自動的に手の高さに来るようにする」
       →作業効率がアップ出来る。
  ・生育段階に応じて温度・湿度・照明量を変化させれば、もっと生育が進む可能性あり。
  ・植物に最適な光の波長の研究が進めば、もっと生育が進む可能性あり。

【デメリット】
《コスト面のデメリット》
★建設コストが高い
 対策=量産化、規模メリット追求、中古建物のコンバージョン利用、
    中古コンテナや中古プレハブの活用

★照明設備代が高い(特にLED照明)
 対策=量産化、規模メリット追求、自然光の活用

ランニングコスト(電気代、冷暖房代)が高い
 対策=規模メリット追求、地中熱の活用、深夜電力の活用、LED照明の活用、
    風力発電とのコラボ(出力不安定な風力発電でも、照明使用には問題ない)

★皆が一斉に生産した場合、価格崩壊につながる。(例=カイワレダイコン)
 対策=受注生産方式にする、市況を読んで臨機応変に栽培作物を変える、
    新作物の発掘

《バリエーション面のデメリット》
★作物が葉物野菜などに限定されている。
(果樹はまず無理、穀物も現時点ではコストに合わない)
 対策=穀物栽培を可能にする土壌栽培技術の開発

《栽培技術上のデメリット》
水耕栽培の場合、一旦病原菌が進入した場合、水を通してたちまち「全滅」する。

★風もミツバチもないので、「受粉」をしない。
 ・・・手作業で受粉させるか、意図的に送風させる必要がある。

《安全面のデメリット》
水耕栽培の場合、肥料をうまくコントロールしないと、健康に悪い硝酸態窒素が発生する。
 対策=硝酸態窒素の発生を抑えられる土壌栽培技術の開発

《資源的デメリット》
★ランニングで使用する電気・冷暖房に要するエネルギーが膨大。
 対策=規模メリット追求、地中熱の活用、深夜電力の活用、LED照明の活用、
 風力発電とのコラボ(出力不安定な風力発電でも、照明使用には問題ない)

★外部からのCo2補給が間に合わない場合、化石燃料燃焼でCo2補給を行うことになる。
 対策=C02ハイトレードの活用、
    規模メリット追求(Co2輸送しても割が合うまで大規模化する)

《社会的なデメリット》
★法的位置づけが不明確。
 (例:「工場」に位置付けられると、第一種住専内の立地に制約)

★「機械的で、自然の摂理に反する」と悪印象を受ける人も一部にいる。