ドラマは、あれは、ビルだよ

傍目にはさっぱりわからないタイトルであるが、まずは身内ネタから。

いわゆる不動産業界には、大京のような「マンション専業不動産屋」、
逆に森ビルのような「ビル専門不動産屋」もあるが、
いわゆる「総合不動産屋」だと、社内に「ビル屋」と「マンション屋」を
抱えることになる。

この2つの人種、微妙に思考パターンが違う。

まず地理知識が違う。

ビル屋は都心3区については「路地裏まで精通している」強者であるが、
山手線外のエリアについては、案外詳しくない。
「●●駅って、西武新宿線だったっけ?」とか聞かれて、
そんなことも知らないのか、と呆れることもある。

マンション屋はその逆で、東京通勤圏内については満遍なく知ってはいるが、
都心3区について、世田谷区や練馬区ほど知っている訳ではない。

関連知識も違う。

マンション屋は、住宅ローンの計算もでき、住宅ローン控除や
贈与税制などの税金についても良く知っている。
他方、ビル屋はそういう知識がない反面、テナントとなるべき
各業界地図を把握している。
つまり、都内に拠点がある一部上場企業の業績も知っているし、
ある程度は業務分野も把握している。(そうしないと相手との雑談についていけない)
日本経済全体について把握している、と言い換えてもいいだろう。

何より、事業化のスパンが違う。

マンション屋は基本的に2〜3年で資金回収するのに対し、
ビル屋は20年、30年、50年の勝負である。
事業収支のエクセルシートも、ビル屋のそれとマンション屋のそれでは、全然フォーマットが違う。

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で、いきなりここからテレビ業界のハナシ。

テレビ局のコンテンツとしては、大別すると
「ニュース・天気予報」
「スポーツ」
「情報番組」
「バラエティ」
「音楽番組」
「ドラマ」がある。

さて、この中で、「速報性」が求められるのは
「ニュース・天気予報」と「スポーツ」である。

天気予報など、「半日前に流した天気予報」なんて、商品価値はほぼゼロだ。
ニュースだって、調査報道ならまだしも、事件速報だと、1日経ったらこれまた無価値。
スポーツだって、生中継でない時差中継、録画中継なんて「気の抜けたビール」である。

「情報番組」、例えば「いい旅夢気分」とか「王様のブランチ」とかは、
まあ数日〜数週間のタイムラグだと許せるが、数ヶ月前の情報だと鮮度がガタ落ちである。
「早春の房総半島」という番組を、盛夏に見てもしょうがない。

「バラエティ」、これは一見リアルタイム度が高いように見えるが、実はそうでもない。
だから「水曜どうでしょう」とか「ナイトスクープ」のDVDが売られるのである。
逆にニュースや天気予報、王様のブランチでDVD販売が成立するかどうか、考えてみればいい。

「音楽番組」、そして「ドラマ」は、これは「長期保存商品」なのである。
社会が変化してドラマの背景がおかしくなる、という面があったりするが
(例=「ポケベルが鳴らなくて」という音楽は、今の子供には理解不能)、
基本的にはそんなに経年劣化しない。
時代劇に至っては、経年劣化が全くしない。
(保存しているフィルムが痛む云々は、別問題)

で、ドラマが「厳しい」のは、既に日本のテレビ界が、50年以上の歴史を掛けて
長期保存商品を作ってきて膨大なストックを抱えているところに、
そこに「割り込んで商売する必然性が薄い」ということである。
まだまだ過去番組のDVD化やネット配信は少ないが、今後本格化すれば、
「2009年度第一クールのフジの月9」は、
「過去数十年もの間のフジの月9のストック集」と勝負しなければいけなくなる。

恐らくまともにカウントすれば「数万」にも上るドラマコンテンツに対して、
本格勝負を挑むのは、はっきり言って「無謀」「バカ」である。
ましてや、ドラマはニュース・天気・スポーツ・情報番組より制作費が嵩む。
来月の番組改編でニュースが増えるのは小生に言わせれば当たり前、
「遅きに失した」である。

逆の言い方をすれば、「ドラマ」というのは、長期間に亘って収益に貢献する、という
「長期保有資産」なのである。
先述のビル屋とマンション屋の喩えで言えば、まさに「ビル屋」である。

しかし、民放は、短期間で収益を上げようとする「マンション屋」の収益発想でしか、
今まで思考パターンが存在していなかった。
ここで求められるのは、ドラマ部隊は、過去の優良ストックをメンテナンスして、
高収益を確保する、という「ビルマネジメント」の発想に転換しなければいけない、ということ。

あるいは、発想を転換して、「当社はマンション専業になります」と宣言してもいい。
つまり、ニュース・天気・スポーツ・情報番組に特化して、ドラマ部門をリストラするのである。
(一時期のテレビ東京ですね)
50年間の膨大な映像コンテンツをライバルにして戦う「無謀さ」を考えれば、
むしろこっちが正解なのではないか?

これは小生が勝手に思い描くテレビ界の「理想像」であるが、民放全局は
ドラマ制作から撤退し、NHKだけが「ドラマ制作ノウハウの継承」を目的として、
細々とドラマを制作する、という感じでいいんじゃないか?
で、資産管理会社を民放は別会社で設立して、そこでドラマ資産の最有効利用を図る。
資産管理会社では資本が入り乱れ、例えばフジと東宝が共同でコンテンツストック会社を
作ったり、テレ朝と東映で共同したりする。

実は民放がキー局のみならず、地方局も構成メンバーである、ということも、
「民放はドラマから撤退すべき」理由である。
ニュース・天気・情報番組というのは、地方独自の放送ニーズがあるわけであり、
この部分に地方局が番組制作する意義がある。