福利厚生施設は企業の隠れ貯金

カンブリアの録画を消化/ベネフィットワンを特集してた/企業の福利厚生代行会社だが、最大の課題は、『従業員が、自分の会社がベネフィットワンと提携していることを、知らない』ケースが多く、もっと利用率が上がって然るべきなのに上がらないこと、らしい

大企業が用意している各種福利厚生メニューって、内容を全て知ってる社員は、せいぜい3割程度なのでは?残り7割は、福利厚生メニューの一部ないし全部を、『そもそも、知らない』/知ってるのは総務部福利厚生担当社員だけ

知名度ですらそうなんだから、利用率に至っては、もっと悲惨だろう/変な話だが、福利厚生担当者の『成果』『ボーナス査定』って、社員の福利厚生制度の利用率で評価されちゃうので、福利厚生担当は『制度の知名度アップ、利用者増に、必死』

この辺の福利厚生を使いこなしているか、否か。社員の中でも、『こういう福利厚生を使い倒す、マニアのような社員』もいれば、『全く利用したことがない、制度そのものを知らない』という社員もいて、二極化してるんだろうな。

上げ善据え膳の福利厚生をありがたがって活用するタイプがいる一方で、『会社が指定する店にだけ縛られるのは、不自由で面倒だ』として、会社が用意した福利厚生施設を『無視』するタイプの社員もいて、自分は後者に該当する

図書館とか自治体主催無料イベントとかも、使い倒している市民はごく少数で、『そもそも、知らない』市民の方が過半数だったり。

この手の提携福利厚生施設って、事前に利用申請が必要だったりで、自分からすれば『メンドクサイ』/『Aという施設を遣えば5%引きだが、Bは非提携施設だから割引ゼロ。でもなんとなくBを使っちゃおう』と思うタイプの人間にはベネフィットワンはリーチしない

面白かったのは、福利厚生というのが、『店や施設側からすれば、値下げする格好の口実になってる』という話。本音では値下げで集客したいが、そうするとブランド毀損し、正価の顧客のクレームを産む/なので、『福利厚生だから、割り引いてますよ』という体面にすれば、ブランド毀損しない

そもそも、一時期に大企業がこぞって保養所の類を作っていたのは、一種の税制の歪みが招いた果実だよね。儲けたカネを福利厚生費に転用すれば、税金を節税できる/将来、企業が左前になった際には、無税で取得した福利厚生施設を売却すればいい。体のいい節税装置

節税装置というよりも、将来実質赤字の会計年度になった際でも、売却特別利益で最終黒字を確保するための『会計安定装置』というべきなんだろうな。日本では『会計年度次第で、大黒字と大赤字が交互』という会社より、『大黒字は出さないが、赤字決算にならない』という会社が評価される

日本の企業決算評価が、『赤字を出したらダメ、粉飾してでも黒字を確保しろ』から『V字回復できるなら、前向きな赤字決算はむしろ望ましい』にコペルニクス的転換を果たしたから、『赤字決算防止用の財源』という役割の保養所は、存在意義がなくなった。

欧米の企業の場合、会社が従業員のために保養所とかグランドとか用意しているの?

経団連な企業だと、要人を接待するための『○○クラブ』のような施設を、都心や箱根軽井沢に用意していたりする。365日のうち、稼働はせいぜい15日で、350日は閑古鳥/欧米の企業だと、要人を接待する場所は、会社の『○○クラブ』じゃなく、CEOの私邸なんだろうな。

日本だと、サラリーマン社長が多くて、社長の自宅と言えども要人を接待するには貧相だから、企業の負担で『社用迎賓館』を整備する必要があったんだろうな

勿論、企業の迎賓館な『○○クラブ』も、赤字決算予防用の役割を兼ねております。何かあったら○○クラブを売却して黒字を確保/東急ホテルの社史の中で、日本鋼管福山の○○クラブの運営を東急ホテルが受託した、とあった

社名は伏せるが、本社が東京で、経団連の一角を占める某重厚長大企業の、地方の事業所(従業員数千名)の街にある『○○クラブ』に行ったことがある。『そのクラブに行けるのは、東京採用のエリート社員だけ』という身分差別装置の役割も果たしていたようだ

因みにベネフィットワンパソナ社員が起業していて、金融危機で金融機関が保養所とかグランドとかを手放さざるを得なくなったのを契機に急成長したらしい/金融危機が無かったら、大企業の社宅やグランドの類が未だ23区に散在したりして、東京のマンションのタネ地は不足してただろうな

『企業の社宅・保養所の切り出し』『同業者による進出反対運動の衰退、保守政治家の利益調整の場面の減少』『郊外庭付き一戸建てから、都心のタワマンへ』という流れは、それぞれがシンクロしている気がしてならない

つまり、世の中の価値観が『効率的』に一本化された。1.社宅やグランドを23区に抱えるのは資産の効率利用じゃないから切り出すべし/2.ホテルや小売の進出に同業者が反対するのは筋違い、非効率な同業は滅びるべし/3.庭にこだわって郊外に住むのは非効率、時間最短な都心タワマンが効率的

効率的な社会というのは、ボラタリティが大きい社内にもなる。企業で言えば、ある期は大黒字、ある期は大赤字。利益のバッファーとなる保養所等の資産保有は『非効率』/ボラタリティの大きな社会は、サヤを抜いて儲けることも可能で、才能ある人間にはチャンスが大きいが、一般人にとっては疲れる社会

大家族主義、家族連結家計、あるいはシェアハウスというのは、『効率的・大ボラタリティ社会』における緩衝装置の役割を果たしているんだな、と。

大家族主義というのは、『伝統的ジェンダーへの復古、戦前回帰』という文脈では否定されるべきだが、『効率ばかり求め、ボラタリティが高すぎ、生身の人間には疲れる現代社会』に対する防衛政策という文脈では、決して悪くないんだよね。/一人が失業しても、もう一人ないし二人でカバー

少子化という現象も、『現代都市部の効率的そしてボラタリティの大きな社会だと、生身の子育て活動の負担が大きすぎるから』という文脈で読み解くべきなんだろうな。保養所等の緩和措置がある社会の方が、安定して子育てしやすい