メモ・オフィスビル市況(三井住信基礎研)

2015年11月12日 不動産ソリューションフェア
オフィスビル市場の動向と今後の見通し」
三井住友トラスト基礎研究所 坂本 雅昭 氏

※三井住友トラスト基礎研究所:三井住信からの業務が半分、外部が半分
 主に不動産の分析をやってる
※「今年は、見通しを語るには、イヤなタイミングですねえ」

★現況の賃料動向(資料1頁)
 ・今後の見方について、意見分かれている。
  ごく一部の人が「強気」、大半の人は「慎重」
 ・1頁のグラフは、「2004年10月=底」「2013年12月=底」として、
  「底」の賃料水準からの回復度合い、および空室率を「前回(ファンドバブル時)」と「今回」で比較。
  なお、「2004年10月、2013年12月=底」という時点判断は三鬼商事データに基づく
 ・「2015年10月」は「底である2013年12月」から丁度20ヶ月。
  「2004年10月の底から20か月の、2006年8月」の賃料水準と比較すると、
  「今回の方が回復している」
  今回=底の賃料×107.9%、前回=底の賃料×105.1%
 ・では、なぜ今回は「回復の勢いが弱い」と言われるのか?
  →今回は、賃料カーブが「常に一定」
  一方、前回は「賃料カーブが、加速度的に上がっていた」
 ・また、足元では、賃料上昇率が鈍化している。
 ・空室率は「前回」より「今回」の方が率は悪い。
  また、この20か月間の空室率改善幅は、今回は前回より小さい(資料2P)
 ・「底」の時点の空室率が、そもそも前回と今回で違ってる。
  前回=8.57%、今回=9.43%
  →今回は、もともと発射台の空室率が高かったうえに、空室率改善幅も小幅。
  従って、現時点での空室率は、(前回と比べると)そんなに低くない。
 ・この20か月間の需要増は、前回20か月間より少ない
  一方、この20か月間の供給増は、前回20か月間より少ない
  これは「滅失面積が、結構多かった」から。(前回▲14万坪→今回▲19.7万坪)
  新規供給は前回より多かったが、それ以上に滅失が多かった為、
  ネットの面積増は、今回は少ない
 ・つまり、この20か月間は、「供給増の鈍さに支えられた空室率改善」
  「需要の急増に支えられた市況回復」じゃない。それが賃料回復ペースが高まらない理由。

★では、「オフィスの潜在ニーズ」は、どう推移しているのか?(資料3P)
 ・南関東地区の就業者数の、「2004/10→2006/8」「2013/12→2015/10」の増加幅比較
  (本当は東京都でデータ取りたいが、データが無い)
  「2004/10→2006/8」=+26万人、「2013/12→2015/10」=+56万人
  つまり、「潜在的なニーズは、今回の方が強い」。
 ・にも関わらず、ビル成約面積は、
  「2004/10→2006/8」=360万坪、「2013/12→2015/10」=297万坪、今回の方が少ない。
 ・就業者数の増加が、テナント増床の動きに顕在化していない

★「2004/10→2006/8」、「2013/12→2015/10」の賃料メカニズム比較(資料4P)
 ・「2004/10→2006/8」:汐留、港南等の新興エリアで大規模築浅が供給、賃料相場を牽引
  当時は、大規模築浅ビルが希少だった→賃料に希少プレミアムが乗っていた
 ・その後、大規模ビルがコンスタントに供給され、希少性が弱まる
  →賃料に希少プレミアムが載らなくなる
  「別に希少性もないのに、高賃料を払う必要なんか、ない」という意識
 ・「2004/10→2006/8」:高賃料を負担できる「青い目の外資」の進出が活発
 ・事例として「●●ビルが、外資□□で、坪5万円で決まったらしい」という噂が流れると、
  その情報が相場を牽引していたものだった。
 ・今は青い目の外資が少ない。
  米英系外資数:2004年=136社→2013年=109社

★企業が「潜在ニーズがあるのに、借りたがらない」のは、
 「世界の実質GDP成長率が、弱いから」(資料5P)
 前回(2004〜6)は世界経済は5.3%成長、一方今回(2012〜14)は3.4%成長に留まる
 また、景気先行指数も、前回は先行き明るかったのに、今回は明るくない。
 ・企業収益は2004〜6=50.3兆円、2012〜14=57.6兆円と増えている。
 なので、企業は「賃料を払えるんだけど、払わない」状態

★中国ショックの影響:資料P6〜
 ・賃料上昇=「上昇率」はあまり期待できない。「上昇期間」しか期待できなさそう。
  「今後、どれだけ長く、賃料上昇が続いてくれるか?」
 ・実物不動産取引件数は旺盛。キャップレートも低下。中国ショックの影響見られず。
  (但し、買い手の厚みが、以前より落ちている)
 ・オフィス需要:2014Q4以降、「伸び悩み」。減少はしていない。
 ・Jリート:十分にエクイティ調達できる環境。実際の調達額も高水準。
 ・Jリート:デット調達も好環境。長期で低利融資受けられる水準。(資料P9)
  融資期間・利回スプレッドとも、前回より借り手優位な環境に。
  「これ以上、改善できないレベルにまで、改善してしまってる」
 ・金融機関の貸出態度DIも、前回より今回の方が「緩い」状況
  (貸出先がなくて、困っている状況)
 ・もっとも、投資家サイドは「金融サイドが、変わってきてるんじゃないか?」と
  少しづつ気にし始めているようだ。
 ・企業業績は好調。雇用環境も良い。
  直近、南関東の就業者数が横這いなのは、「採用したいのに、採用出来ない」から。
  (有効求人倍率は上がり続けている)
 ・訪日外国人数、9月は若干トーンダウンしたが、トレンドは強い。
  因みに、中国人の家計に占める株式等の比率は19%。諸外国と同水準。
 ・不動産の予兆管理上、重視しているのは「川上の」アメリカ経済
  米国景気先行指数は、不動産の先行指標になってるが、
  ここ3ヶ月連続で「横這い」となっていて、イヤな感じ。
 ・今後の見通しは、
  「2017年4月(消費増税)までに、世界経済が回復しているかどうか」がカギ(資料P13)
 ・リーマンショック:急性ショック、中国景気:慢性のボディーブロー。性格が違う。
  中国の景気は「ある意味、想定範囲内」の話なので、「大ショック」ではない。
  →不動産価格は「じわじわと」変動するだろう。

★今後の不動産価格の見通しは?(資料P14)
 ・エクイティ資金については、ネガティブ要因より、ポジティブ要因の方が、多い
  →「高止まり」。少なくとも、「下がらない」。
 ・最大のポジティブ要因:「他に運用先が、無い」
原油安で世界的低インフレゆえ、株は期待薄。ボラティリティも高い。
 ・債券も利回り低過ぎ、日本国債は(日銀が買い過ぎて)流動性低下、金利上昇リスク
 ・不動産:「安定したインカムゲイン」が魅力的
 ・海外投資家が多様化。アゼルバイジャンノルウェー等。
 ・海外マネー:前回は「入超」状態だったから、引き上げた時のダメージ大きかった
  今回は、実は「出・入でトントン」。なので、急に引き上げることもない。
 ・インカム(賃料)は、大幅に上がらないまでも、「少なくとも、下がらない」
 ・一方でネガティブ要因は「株が下がった際に、リバランスで不動産も下がる」、或いは
  「『今が売り時』ということで、当初予定より早く売られる」という要因程度しか、ない。
  (先行き不透明なので、今のうちに売って利益確定したい、という動き)

★不動産金融の見通し(資料P15)
 ・「いかんせん、貸出先がない」ので、今後も「ゆっくり拡大」していく
 ・但し、警戒感は強めつつある。貸出態度は徐々に厳格化か。
  不動産融資へのリスク管理は強化されてる。
  不動産業向け貸出比率もそんなに拡大してない。
 ・「利鞘は薄く、LTVは低く、ロットは大量に供給」

★オフィス賃貸市場見通し(資料P16)
 ・2016:空室率低下は一旦ストップ。但し、空室率上昇までは行かない。
  (新規供給がやや多く、他方、需要はそんなに強くないため)
 ・2017以降:再び空室率低下と予想。新規供給が少ないから。
 ・今後、仮に景気が悪化しても、そんなにビル市況は崩れないだろう。
  ビル潜在需要はあるのに、床を増やしてなかったから。
  「上がってないのだから、逆に、下がることも、ない」

★2016竣工ビルのリーシング状況(資料P17)
 ・2016:確かに2015の1.3倍の供給はあるが、リーシングは好調
 ・「2016年問題」と言われていた頃もあったが、竣工時期が後倒しされている。
 ・資料P17:左は「2014/9時点の、2015竣工ビルのリーシング状況」、
  右は「2015/9時点の、2016竣工ビルのリーシング状況」
  つまり同時点における状況比較だが、今期の方が好調。
  (昨期:契約内定率39%→今期:契約内定率48%)
 ・2016竣工ビル:地域が(2015と比べ)分散していて、企業側からすれば選択しやすい。
  (2015:東京駅圏と品川駅圏に集中していて、選択肢が乏しかった)
 ・「契約・内定率が高い」=「早めに契約してる」=「移転も早く決まってる」
  =「二次空室はあまり発生しない(だろう)」
 ・大体、プロジェクトを公表した時点で、テナントが決まっている感じ。

★2019年問題・新規供給ダム論(資料P18)
 ・2019がターニングポイントになるかも。
 ・2016〜18のプロジェクトが、2019へ向けて「後ろ倒し」に。
  一方、2019年を超えて、2020年に「後ろ倒し」にはならず、2019年が「供給のダム」に。
 ・ホテルを含んだ複合プロジェクト:「五輪前には、間に合わせなければ」となる。